シナイの王国

演劇部顧問ナカムラのあれこれ

好みの問題

「いっしょけんめいハジメくん」のハジメくんが勤める大手商事の社歌は「大手はいいぞ頼れるぞ」というのだが、演劇人にはあるまじきことに、自分はどうも寄らば大樹の陰という志向が強い。大きくてきれいで有名なものが好きだ。

友人のKくんは、きれいな店と汚い店が並んでいたら必ず汚い店、大きいのと小さいのなら小さい店、チェーンと個人経営なら個人、義務のようにマイナーな方を選択する。町中でいちばん汚くて小さい自動車整備工場を探し出し車検を頼む。もちろん個人経営だ。そしてディーラーに出したよりも5割増しの料金を請求され、期日の遅れにも丁寧な仕事であるからと満足し、戻ってきた車の不具合にもなにかの間違いであろうとあくまで工場の親父に肩入れするのである。
こちらは大きくてきれいで有名な店が好きなのだがKくんに合わせて汚いところもずいぶん入った。わかったことは汚い店もおいしかったりまずかったりするということである。
Kくんのように汚いからとか小さいからよい、というのも、おれのように大きくてきれいで評判がいいからよい、というのもどちらも好みの問題で、どちらが正しいというようなもんだいはなさそうだ。両方とも抽象的な思考をするからややこしくなる。何事に付け決めつけるのはよくない。

ただおおまかな方針を決めておくと楽なことはある。これも本で読んだのだが、山本夏彦の「服は流行ものを着るべきだ」というのには感心して、以来そうしている。ズボンが太くなれば太いの着て、細くなれば細くする。着るものくらいで自分を表現なんてなんて野暮なことだ。みんなが着てるものがいいんだ、ということだね。山口瞳の「礼儀作法とは己を虚しうすること」なんていうのもいい。気持ちを込めるより形を整えた方がいい。